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Qt はイベント駆動型フレームワークである
イベントについて正しく理解していないと、マルチスレッドやシグナル・スロットでハマル場合がある。
正しく理解して、正しく使いましょう。

イベント概要

基本事項

• Qt は基本的にイベントドリブンな（イベント駆動型）フレームワークである。
  ※ イベンドリブンとは、イベントを待機し、起こったイベントに従って処理を行うプログラミングパラダイムのこと。
• イベントはOSやユーザ操作により生成される。
• イベント種別としては、キー、マウス、表示、リサイズ、タイマー等がある。
• 発生したイベントオブジェクトはイベントキューに積まれ、ディスパッチャにより適切なクラスのイベントハンドラに渡される。

            ┌──────────┐      
            │  イベントキュー・  │      ┌─────────┐
            │   ディスパッチャ   │      │ イベントハンドラ │
            └────┬─────┘      └────┬────┘
          event-1     │                            │
          ─────→│────────────→┌┴┐
          event-2     │                          │  │event-1 の処理
          ─────→│                          │  │
                      │                          └┬┘
                      │────────────→┌┴┐
                      │                          │  │event-2 の処理
                      │                          │  │
                      │                          └┬┘
          event-3     │                            │
          ─────→│────────────→┌┴┐
                      │                          │  │event-3 の処理
                      │                          │  │
                      │                          └┬┘
                      │                            │
                      ↓                            ↓
  

• イベントは発生時直ぐに処理されるわけではない。それ以前にキューに積まれたイベントが全て処理されると順番がまわってくる。

イベントクラス、イベントハンドラ

• QEvent はイベントを抽象化したクラス。具体的なイベントごとに派生クラスが存在する。
• イベントが発生すると、仮想関数 QObject::event(QEvent *) がコールされる。
• QObject::event(QEvent *) はイベントタイプを参照し、仮想関数 QObject::ketPressEvent(QKeyEvent *), QObject::paintEvent(QPaintEvent *) 等をコールする

            ┌──────────┐
            │  イベントキュー・  │┌─────────┐┌─────────┐┌─────────┐
            │   ディスパッチャ   ││ QObject::event() ││ keyPressEvent()  ││   paintEvent()   │
            └────┬─────┘└────┬────┘└────┬────┘└────┬────┘
          key-event   │                      │                    │                    │
          ─────→│─────────→┌┴┐───────→┌┴┐                  │
          paint-event │                    │  │                │  │                  │
          ─────→│                    │  │                │  │                  │
               ：     │                    └┬┘                └┬┘                  │
               ：     │─────────→┌┴┐─────────│────────→┌┴┐
                      │                    │  │                  │                  │  │
                      │                    │  │                  │                  │  │
                      │                    └┬┘                  │                  └┬┘
                      │                      │                    │                    │
                      ↓                      ↓                    ↓                    ↓
  

• paintEvent() は複数の paintEvent() をマージする。
  参考： MFC ではペイントイベントは最も低いプライオリティで最後に処理される。
  Qtの paintEvent() も同様？
• 親子関係がある場合のイベント処理：
• 通常のQtプログラミングはウィジットのシグナルとソケットを結合するこであるが、 ウィジットの動作をカスタマイズしたいときはイベントハンドラをリインプリメントする必要がある。
• イベントフィルターをインストールすることで、既存クラスオブジェクトの動作をカスタマイズすることが可能。

イベントループ

• イベントはイベントループ（MFCのメッセージポンプと同義）により処理される。通常は QApplication::exec() によりイベントループが開始される。
• 通常、イベントループはプログラムにひとつだけ。マルチスレッドにより複数のイベントループを持つことができる。
• キューイングされたシグナルの処理もイベントループにより処理される。
  ※ connect() の第5引数で Qt::QueuedConnection を指定した場合
• 異なるスレッド間のシグナル・スロット通信は sendEvent() により自動的にキューイングされる。
  したがって、スロット側のメッセージループが廻っていないと、スロットメソッドは永久にコールされない。
• イベントハンドラの処理が長時間に及ぶと、メッセージループが廻らず、その間のイベントは処理されず、アプリの動作が重くなる。
  例えば、resizeEvent() の処理が長いと、スムースにリサイズ出来なくなりストレスがたまる。
• QPushButton::clicked() シグナルに DirectConnection されたスロットは、 mouseReleaseEvent() ハンドラからコールされていることを忘れてはいけない。

イベント送信

sendEvent(), postEvent() によりイベントを QObject 派生クラスのオブジェクトに送信できる。

bool QCoreApplication::sendEvent ( QObject * receiver, QEvent * event ) は、イベントが処理されるまでブロッキングされる。
event オブジェクトはハンドラによりデリートされることはない。

void QCoreApplication::postEvent ( QObject * receiver, QEvent * event ) は、イベントをキューに積み、直ぐに処理を終える。
event オブジェクトは new でヒープ上に確保されなくてはいけない。

イベントハンドラのリインプリメント

表示イベント

paintEvent(QPaintEvent *) をリインプリメントして描画をカスタマイズ

 1: class MainWindow : public QWidget
 2: {
 3:     .....
 4: protected:
 5:     void    paintEvent(QPaintEvent * event);    //  描画のためのイベントハンドラ宣言
 6:     .....
 7: };

 1: void MainWindow::paintEvent(QPaintEvent * event)
 2: {
 3:     QPainter painter(this);
 4:     painter.setPen(Qt::blue);
 5:     painter.setFont(QFont("Arial", 20));
 6:     painter.drawText(rect(), Qt::AlignCenter, "Hello, world.");
 7: }

update() で画面が無効化された場合等、画面再描画が必要になった場合に paintEvent() がコールされる。
QPainter(QPaintDevice *) で描画オブジェクトを生成し、描画メソッドを使って画面を描画する。
QPaintDevice 派生クラス：QGLFramebufferObject, QGLPixelBuffer, QImage, QPicture, QPixmap, QPrinter, QSvgGenerator, QWidget

QPainter 主な描画メソッド：

※ イメージ（QImage）：ハードウェア非依存画像、ピックスマップ（QPixmap）：スクリーンに描画するために最適化
※ ピクチャ（QPicture）：描画処理を保存・再生するためのもの
※ 静的テキスト（QStaticText）：文字列やフォントなどの変更が稀なもの。表示情報をキャッシュし処理を高速化。

QPainter 属性：

■ 演習問題

1. 画面に色々な図形を描画してみなさい

マウスイベント

mousePressEvent(QMouseEvent *), mouseReleaseEvent(QMouseEvent *), mouseDoubleClickEvent(QMouseEvent *) でマウス操作を実装

QMouseEvent の以下のメソッドでマウスの状態を参照することができる。

■ 演習問題

1. マウスクリックされた位置に円を描画するようにしなさい
2. マウスボタンが押された位置から離された位置を対角線とする矩形に内接する楕円を描画しなさい

キーイベント

keyPressEvent ( QKeyEvent * event ), keyReleaseEvent ( QKeyEvent * event )

QKeyEvent の以下のメソッドで押されたキーの情報を取得できる。

■ 演習問題

1. キー入力された文字列を画面に表示するようにしなさい

イベントフィルター

イベントフィルターをインストールするこで、ソースの無いウィジットでも、動的に動作をカスタマイズ出来るぞ。

手順：

1. void QObject::installEventFilter ( QObject * filterObj ) でイベントフィルターをインストール
2. bool QObject::eventFilter ( QObject * watched, QEvent * event ) を実装

installEventFilter(filterObj) で、filterObj へイベントフィルターをインストールする。 filterObj にイベントが発生すると、まず eventFilter() がコールされる。 eventFilter() でイベントが処理されなかった場合は、通常のイベント処理が行われる。

eventFilter ( QObject * watched, QEvent * event ) の第1引数は、どのオブジェクトへのイベントかを識別するためのもの。
第2引数はイベントオブジェクト。event->type() でイベント種別を判定可能。
eventFilter() でイベントを処理した場合は true を返す。false を返した場合は、通常のイベント処理が行われる。

使用例：QPlainTextEdit の左側に行番号表示

ViEditView::ViEditView(QWidget *parent)
    : m_mode(CMD), QPlainTextEdit(parent)
{
    m_lineNumberArea = new QWidget(this);
    m_lineNumberArea->installEventFilter(this);
}
bool ViEditView::eventFilter(QObject *obj, QEvent *event)
{
    if( obj == m_lineNumberArea && event->type() == QEvent::Paint ) {
        drawLineNumbers();
        return true;
    }
    return false;
}

void ViEditView::drawLineNumbers()
{
    QPainter painter(m_lineNumberArea);
    .....
}